【義両親へ】知らず知らず受け継がれていた親孝行の手紙

今年、私と夫は連れ添ってから丸14年になりました。

夫の母(義母)が亡くなったのは、私達が夫婦になってちょうど二ヶ月が経った、新婚の時でした。

その日は義母から誘いを受けて、一緒に夕食を共にする約束をしていました。

お酒が大好きな義母でした。

以前食事をともにした際には、少し照れ屋な義母も、お酒を飲むとリラックスして、別れ際には

「結婚してくれてありがとうね」

と言って、握手をもとめてきたことがありました。

子育ても終盤を迎え、これからの未来が楽しみな様子の義母を、よく覚えています。

その日、義父母とは数ヶ月ぶりに再会する予定でした。

たまたま休みで、義父母宅に向かう前に買い物に出ていた私の元に、義父からメールが届きました。

義母が倒れたというのです。

突然の知らせでした。

急いでタクシーで病院へ向かいました。

しかし、その時はまだ詳細を知らされておらず、貧血か何かで倒れたものと思っていました。

病院へ着くと、救急科のロビーに義妹がいました。

「お義母さん、どんな具合?」

義妹に尋ねたとき、義妹の横から女の人が現れました。

その方は義母のお姉さんでした。

初めて会うその方との初めての会話を今でも忘れられません。

「亡くなったの」

そう、淡々と告げられました。

職場で同僚と会話したあと、立ち上がって急に倒れた義母は、その日、そのまま帰らぬ人となりました。

病院が昔から苦手だった義母です。

心臓に問題を抱えていることを知らずに過ごしていたそうです。

突然の義母の死で、家族は悲しみに包まれました。

夫の姓を名乗り始めてまだ新婚2ヶ月だった私は、その後執り行われた義母の葬式で、初めて会う夫の親戚に結婚したことを遠慮がちに告げ、挨拶して回りました。

家族となって間もなくの義母との悲しすぎる別れ。

私とは親しい関係をつくる間もなく、逝ってしまった義母。

義母の親戚が聞かせてくれる、義母の人となりや思い出話。

そういった少しの情報をつなぎ合わせて、私なりに義母を偲んでいました。

そんな折、義父の田舎に、結婚後初めて、挨拶に行くことになりました。

新幹線で何時間もかけて行くところです。

義父自身も、この数年は帰ることがなかったようです。

義父の田舎では、夫の祖母(義祖母)にあたる方が私達を迎えてくれました。

義母の死と私達夫婦の結婚。

悲しみと喜びで複雑であろう心境の中、義祖母はとても温かく、私達をもてなしてくれました。

数日間の滞在中は、義祖母の家に泊まらせてもらったり、共に観光したりしました。

帰る前夜には、義祖母も一緒に、その土地で有名な温泉旅館に一泊することになりました。

義父、夫、義祖母、私の四人です。

美味しい食事を終えたあとの温泉には、義祖母と二人で入りました。

湯に浸かりながら、義祖母はいろんな話をしてくれました。

義母が生きていたらきっと、女三人、水入らずの時間となっていたでしょう。

翌朝、早起きの義祖母がすでに起き上がって窓の外を眺めていたので、私から朝風呂に誘いました。

数日の滞在ではありましたが、義祖母とは心通い合う時間を持つことができました。

それからは、遠く離れた義祖母宛に、私から度々手紙を送るようになりました。

足の悪い義祖母は、きれいな花の写真や、出かけた際にとった風景の写真を同封すると、とても喜んでくれました。

義祖母との手紙のやり取りはそれから何年も続き、私達夫婦にこどもが生まれてからは、写真をアルバムにして送りました。

義祖母はひ孫の誕生をとても喜び、事あるごとに、お祝いや美味しい食べ物を送ってきてくれました。

そんな私達夫婦と義祖母のやり取りを、義父や義祖母の周りの人達はとても喜んでくれました。

義祖母は、手紙をもらうととても嬉しそうだ、と言って、私に感謝してくださる義祖母の親戚もいました。

私にとって祖母に手紙を書くことは、とても自然なことでした。

私を家族として温かく迎えてくれた義祖母に、私達の近況を報告していただけです。

そのことで、祖母が元気でいてくれるなら、それは私にとって嬉しいことでした。

そんなある日、義祖母の誕生日の話を義父から聞きました。

義祖母の誕生日が近づくと、生前は必ず義母がプレゼントを用意して送っていたのだそうです。

誕生日のみならず、家族の近況報告などをまめに手紙で知らせていたという義母。

それを受け取る義祖母の笑顔が浮かびます。

私が義祖母にしていることと同じことを、義母はずっと前からしていた

のです。

義祖母は義母にとっての義母。

遠く離れていてなかなか会えない夫の母に対する、義母なりの親孝行だったのでしょう。

そして私は、知らず知らず、生きていればこれからも義母が続けていくはずだった親孝行を引き継いでいました。

義母は亡くなったあとも、私を通じて義祖母に親孝行をしていました。

そして私にとっては、

「義祖母と交流を続けることが、私が義母に対してできる、唯一の親孝行なのかもしれない」

そう思いました。

義母と想いを同じくして、義祖母に手紙をおくることができていることを嬉しく思いました。

生きているうちにできなかった親孝行を、少し違った形で叶えることができた気がしました。

きっと、義母も天国で喜んでくれているのではないかと思うのです。

一昨年、義祖母もまた、義母のもとへ旅立ちました。

義祖母は天国で義母と再会したでしょうか。

何十年後か、私が二人の待つところへいくことになったら、きっと今度こそ女三人、水入らずの時間が過ごせるのでしょう。

そんなことが今から少し、楽しみです。