私は20代の頃、海外を飛び回っていたプロサッカー選手でした。
現在は日本とヨーロッパを行き来しながら、プロスポーツ選手の代理人としてチームやスポンサーとの契約や交渉をするプロスポーツ選手エージェントという仕事をしています。
そんな私が、現役サッカー選手時代にした親孝行の思い出を話したいと思います。
子供の頃からずっとサッカー一筋だったので、大人になったら、いつか親孝行をしたいと漠然と思っていました。
何か、両親を喜ばせられることをしたいと、大学に入学した頃から強く思うようになりました。
当時は当たり前のことで考えもしなかったのですが、振り返ってみると、自由な時間を割いてまで、毎日朝早く起きて食事を作ってくれた母、文句ひとつ言わず練習に連れて行ってくれた父にとても感謝を感じたからです。
大学進学後、全寮制ということもあり、食事から洗濯、身の回りのことは全部自分でやらないといけない状況にたたされ、そこで改めて両親の偉大さに気づくようになりました。
また、寮の生活はいつも4人部屋ということもあり、練習が終わり疲れ果てて寮に帰っても、実家とは違いアットホームな感じではなく、心の疲れというのは溜まっていくばかりでした。
厳しい寮生活でしたから、部活で何か辛いことがあっても、本音で話し合えたり、気が休まることはありませんでした。
寮生活、サッカー、寮生活、サッカー、寮生活、サッカーと、サッカーに明け暮れていた私でしたが、年に一回だけ、実家に帰省できる機会がありました。
実家に帰ると、両親は嫌な顔ひとつ見せず、あたたかく、いつものように
「おかえり」
と私を出迎えてくれ、食事、掃除、洗濯をしてくれていました。
プロサッカー選手になるというのは、とても狭き門です。
私は子供の頃からサッカーが大好きで、ずっと練習をしてきましたが、こんな生活を続けて、本当にプロのサッカー選手になれるかどうかなんて、正直、わかりません。
なのに、どんなときも、いつも私を応援してくれている両親をみて、
「いつか絶対、自分が一人前のサッカー選手になったら、両親に何か恩返しがしたい」
と胸に秘めていました。
大学卒業後、念願が叶い、私はヨーロッパのクラブに所属することになり、プロサッカー選手として生活をしていました。
そこで、以前から念願だった、両親への恩返しとして、日本にいる両親をヨーロッパに招こうと思いつきました。
両親の航空券を手配し、ヨーロッパに滞在する1ヶ月分のホテル宿泊費と食費、ジャグジーやトレーニングジム、娯楽施設などの使用料など一切すべてを私が出すので、両親には、
「一切、お金を持ってこないで」
と伝えました。
私は、何から何まで、日々の生活にかかるすべてのことを、1ヶ月の間、自分がサッカーで稼いだお金で親孝行をしたかったんです。
それを両親に言ったとき、父も母も、とても驚いていました。
具体的な金額は伏せますが、日本からヨーロッパへの渡航費、1ヶ月のホテル滞在費用、食費やサービス利用料などを含めると、かなりのお金が必要になります。
社会人になったとはいえ、まだ大学を卒業して数年、26歳で簡単に出せる金額ではありません。
しかし、自分も、
「両親が今まで毎日、応援しつづけてくれたから、自分はこうして立派なサッカー選手になれた」
ということを、どうしても見せたかった。
思い返してみても、かなり見栄を張っていた部分はあったのですが、両親と一緒に1ヶ月間ヨーロッパで過ごせたことは今でもやってよかったと思うし、大切な思い出になっています。
私は、この親孝行を通じて学んだことがあります。
それは、
「感謝の気持ちをどんなカタチでもいいから、伝えた方がよい」
ということです。
家族に面と向かって、素直に
「ありがとう」
というのは、かなり恥ずかしいものがあります。
父にでもハードルが高いのに、母にとなったら、なおさらです。
私もまさにその一人で、言葉で伝えるのはとても恥ずかしかった。
なので、旅行に両親を誘ったり、プレゼントしたりして、
「言葉では伝えられない。伝えづらいけど、感謝の気持ちを伝える」
ことの大切さを感じました。
親というのは、どんなカタチで伝えたとしても、ちゃんと受け取ってくれるし喜んでくれます。
私が一番実感したことは、両親のありがたみを知る環境に自分の身を置いたからです。
私は大学4年間全寮制で両親とは離れ、卒業後も4年間の海外生活を過ごしましたが、ずっと一人暮らしをしていました。
その生活で、常日頃から、
小さな頃から両親が当たり前に私にしてくれていたこと、
家に帰れば、食事があったり、
寝て起きたら、洗濯が干され、キレイに畳まれていたり、
安心して毎日を暮らすには、多くのお金がかかったり、
と、自分一人の環境に身を置いたことで、両親の偉大さや大切さに気づくことができ、親孝行をしたいという気持ち、家族が仲良く明るく暮らせることがどんなに大切なものなのか、わかりました。
「当たり前だと思っていた実家での生活は、両親が家族のために精一杯努力してくれていたから。それをずっと続けてくれていたから」
なのだ、と。
そんな両親がいたからこそ、私はサッカー一筋で練習に打ち込め、難関のプロサッカー選手になり、夢を叶えることができた。
それを残しておきたい。
恥ずかしくてなかなか親孝行らしいことができなかったとしても、当たり前に見えることにきちんと感謝の気持ちを持ち、両親や家族に感謝を伝えていくことを大切にしてほしいです。
それが大きな夢を叶えることにつながっていくのだと思います。